◎田村隆一「言葉のない世界」より【帰途】
『帰途』
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
言葉のない世界
言葉が意味にならない世界に生きてたら
どんなによかったか
あなたが美しい言葉に復讐されても
そいつは ぼくとは無関係だ
きみが静かな意味に血を流したところで
そいつも無関係だ
あなたのやさしい眼のなかにある涙
きみの沈黙の舌からおちてくる痛苦
ぼくたちの世界にもし言葉がなかったら
ぼくはただそれを眺めて去るだろう
あなたの涙に 果実の核ほどの意味があるか
きみの一滴の血に この世界の夕暮れの
ふるえるような夕焼けのひびきがあるか
言葉なんかおぼえるんじゃなかった
日本語とほんのすこしの外国語をおぼえたおかげで
ぼくはあなたの涙のなかに立ちどまる
ぼくはきみの血のなかにたったひとりで帰ってくる
※ 詩と言葉
何と激しい叙情に充ちた作品だろ。「血」と「涙」との持つ意味
叙情詩の類型であるが、それを破壊する強さで終結している!!
「あなたの涙」「きみの血」が、いかなるものかに注意し、言葉が意味や価値(美しさやひびき)の宿る領域の全てなのだ。
「言葉なんかおぼえるんじゃなかった」という一行の逆説的な余韻。
三、四行目の反・叙情的?な味わい・・で無かろうかと思う。
Kamop
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